自分の前の空いている席を見て、その席の主を思い出す。
千石 清純。
たしかに外見はカッコイイと思う。
部活で、テニスをしているときなんて、最高潮だと思う。
そう、喋らなければいいんだ。アイツは。
一言話せば、「今日ヒマ?」とか「今日も可愛いね!」とか。
軽い言葉ばかり。
いつか、南に聞いたことがあるけれど・・・。
千石のタイプは「女の子みんな!」らしい。
・・・だらしが無いにも程がある。
そういえば、コイツ『セイジュン』って書いて『キヨスミ』か・・・。
絶対、間違ってる。
「キヨスミ・・・ねぇ・・・。はぁ・・・。」
本当。ため息も出ちゃうぐらい、名前と性格が正反対。
「なぁに?ちゃん♪」
うわぁ・・・。さっきまでいなかったのに、運悪く、私の呟きが本人に聞かれしまった。
もう朝練が終わったのか?くっそ・・・。もうちょっと遅く来いよ!!
とりあえず、私は無視した。
「俺の席を見つめながら、俺の名前を囁いて、ため息を吐いて・・・。何、恋の悩み?そんなに俺が恋しかった??」
「黙れ。見つめてないし。囁いてない。」
「ちゃん。その言い方はヒドイよ?・・・それと。おはよ♪」
そんな挨拶にも、私は完全に無視した。
コイツと喋ってると、ろくなことが無い。
「無視??ヒドイなぁ・・・!それにしても。ちゃんって、本当素直じゃないよねぇ・・・?」
椅子を横にして、こちらを向いて、千石は席に着いた。そして、まだ何か馬鹿なことを話している。
「いつも、いつも、そうやって冷たくする割りに、陰では俺のことを名前で呼んでたなんて・・・。」
「呼んでないから。」
あぁ、しまった。つい、ツッコミを入れてしまった・・・。
でも、仕方が無い。さっきのは、本当に呼んだわけじゃないし。
「じゃあ、なんで、俺の名前を口にしたの・・・?」
「あまりに名前と性格が違うからよ。」
「どういう風に??」
「・・・自分でわかってないの?」
「ぜ〜んぜん♪」
絶対わかってんだろ・・・。本当、コイツと話してると、マジでムカつく・・・!!
「アンタ、『セイジュン』って書いて『キヨスミ』でしょ?全然、『セイジュン』じゃないじゃん。」
「ウソ・・・。俺って、どっからどう見ても『セイジュン』でしょ!」
「どっからどう見れば『セイジュン』に見えるのか、むしろ教えてほしいわ。」
「手取り足取り教えようか??」
「結構です。」
どう見れば『セイジュン』に見えるかなんて、教えられるわけがないでしょうが。しかも、手取り足取りって・・・。どうやって、教えるつもりよ?
あぁ、こんな奴に少しでも相手した私が愚かだったわ。
そう冷静に思い直して、私はまた無視を続けることに決めた。
「つれないなぁー、ちゃん。そんな風にされたら、さすがに俺だって傷つくよ?好きな子には優しくされたいでしょ??・・・・・・もしかして、ちゃんって。Sっ気が・・・。」
「千石。今すぐ黙るか、永遠に眠るか、選ぶ?」
「冗談だって。あまりにちゃんが無視するから、ね?それに、永遠に眠るだなんて、そんな恐ろしいことを言っちゃダメだよ?」
「アンタが言わせてんでしょ?!」
・・・って、結局相手をしてしまった私。
まともな人間になると、こういう非常識な人間についツッコんでしまうから損よね・・・。
いや。本当は、それだけじゃないのは、自分でもわかっている。
「大体、アンタは女の子だったら、誰にでも軽く話しかけて・・・。本当、南に聞いたとおり、女の子なら誰でもいいみたいね・・・っ!」
「・・・・・・・・・。」
私がきつくそう言うと、さっきまでとは打って変わって、千石が急に黙り込んだ。
こんなに正論を並べたら、さすがに何も言えないでしょーね!
そう思って、私は更に強気に言った。
「反論はないの?」
ただ、私は次の千石の言葉で後悔した。
・・・少し、熱くなりすぎた、と。
「ちゃん・・・。いつ、南に俺のタイプを聞いたの?と言うか、どうしてそんなことを聞いたの・・・?」
しまったと思って、今度は私が黙り込んだ。
すると、千石がだんだんニヤニヤとした顔つきになって、視線を逸らした私の顔を覗き込んだ。
「普通、どうでもいい相手のタイプなんて、気にならないよねー??あれれ、と言うことは・・・?」
「たまたま・・・!そういう話になっただけよ・・・!!」
「ふ〜ん・・・。じゃ、南のタイプは知ってるの?」
「それは・・・・・・教えてもらえなかったの。」
明らかに形勢逆転。
私は千石と目を合わすこともできず、視線を逸らしたまま、千石の問いにたどたどしく答えた。
「へぇ〜・・・。じゃあ、ちゃんのタイプは南に教えたの?」
「・・・そんなの千石に答える義理は無いでしょ。」
「あとで南に聞いてみようかなー?」
「・・・・・・そうすれば?」
「そうだねー。あとで南に・・・『今までちゃんの恋愛相談とか受けてくれてたみたいで・・・。本当ありがと!おかげで、俺たち付き合えることになったよ!!』とでも言ってみようかなー?南は何て答えるだろうねぇ?」
コイツ・・・!!!
だけど、私は何も言い返せなくて、更に千石に追い討ちをかけられた。
「いや・・・。あとで聞くと、それまでにちゃんが南に会って、何かしらの対策を考えるかもしれないし。今すぐ電話で・・・。」
「千石・・・。」
「なに、ちゃん??」
「私の負けでいい。」
「それって、どういう意味??」
そう言った千石は、ずっとニヤニヤし続けていた。
あぁ、本当に腹が立つ・・・!!
なんで、私はこんな奴を好きになってしまったの・・・?!
だけど、好きじゃなければ、コイツが女好きであっても、何も気にならない。
好きじゃなければ、コイツが部活に取り組んでいる姿など、知るはずもない。
だから、私は・・・。
「・・・・・・好き。」
「ん?何て言ったのかな??よく聞こえなかったなぁー。」
「・・・もう知らない。」
「いいのかなぁ?他の子と喋っちゃうよ??」
「知らないって言ってるでしょ!この女好き!!」
「冗談だって。俺も女の子とはよく喋ってると思うけど、俺が本当に喋りたいとか会いたいと思ってるのは、ちゃんだけだから。」
「千石に言われても、説得力無い。」
「本当だよ!実際、本当に1番喋っている女の子は、ちゃんだもん。南にでも聞いてみてよ。」
それは・・・。たしかに、聞いたことがある気がする。
でも、あれは南が私を励ますために言ってくれたのだと思っていた。
だから、あんまり気に留めてなかったんだけど・・・。
「本当に・・・?」
「もっちろん♪信じてくれた??」
って、南の名前が出たことによって、うっかり信じちゃいそうになったけど・・・!!
しかも、千石があまりに真剣な表情で言うから、危うく騙されそうになったけど・・・!!
「信じられるわけがないでしょうが!」
「そっか・・・。好きな子に信じてもらえないって・・・。本当、辛いことだよね・・・。」
千石は、真剣な表情でもなく、ましてや面白がって言ってる様子は無く。突然、悲しそうな表情でそう言い出した。
な、何よ・・・。なんで、急にそんな態度を取るのよ・・・!!
「千石・・・?そ、その・・・。千石が悪い奴じゃないのはわかってるよ・・・。」
「ううん。無理にフォローしなくて、いいんだよ・・・?」
あぁ〜、もう!!好きな人に、そんな悲しそうにされて、何もしないわけがないでしょ?!
しかも、原因は自分なわけで・・・。
「違うよ。千石は本当にいい奴だと思ってる。だからこそ、私もその・・・。好き・・・なわけで・・・。」
「ホント〜?わ〜い!!俺も、大好き♪」
おい、なんで急に、そんな元気になってんだよ・・・?お前・・・!演技だったのかよ?!!
くっそ〜・・・。まんまと騙された・・・!!
「ちょっと!何、その急なテンションの違いは?!ウソ吐いてたの?!」
「ウソは言ってないから☆」
「女心を玩んで、こんなことを言わすなんて・・・。本当、信じられない。この女たらし!!」
「でも・・・。好きなんでしょ??」
「うるさーい!!」
そんなわけで、めでたく・・・。いや、全然めでたくはないけど!!とりあえずは、私たちは付き合うことになった。
こうなったら、私がみっちり、躾けてやるんだから!!
「躾かぁ・・・。やっぱり、ちゃんは、そっちの気があるみたいだねー・・・。」
「そういう意味じゃない!!」
久々の千石夢です。以前から、「セイジュンって・・・。千石さんとは正反対やなぁ・・・」と思っていたので、それをネタにしてみました!
そんなわけで、今回は軽すぎる感じを出そうと思ったんですが・・・。軽いって、どういうことなんでしょうね・・・。意外と難しかったです;;
あと、残念だったのは、南さんが登場しなかったことです(笑)。
名前しか出せなかったので、寂しいです・・・。南さんは、相談役として、いろいろ苦労している姿を書きたかったです!!(笑)
('08/02/21)